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「私もいい夢を見ていたのよ、今までずっと」 静華は、そう言うと、ゆっくり目を閉じた。 「養護施設にいた時はね、荒っぽい子達がいたんだけど、いつも喜多川が私を守ってくれたの。喜多川はそのうち問題を起こして少年院に入ってしまい、疎遠になってしまったけど」 「そう」 「養護施設を出てからは、私なんて何も持ってないから、ひたすら苦労するしかなかったけど、場末のスナックで毎日ボロボロに酔っ払ってホステスをやってた私を救ってくれたのが、夫だったの。私はずっとあの人に守られて、夢を見ていただけなのよ、ずっと」 「いい夢に乾杯」 「でも、もう夢は終わってしまった。今の私が、本当の現実の私よ。施設に寄付する夢も終わってしまった」 「いい夢に乾杯」 「あら、もう酔っ払ってるの?」 「酔っ払っているうちが花さ。いい夢に乾杯だ。君の人生がこの後どうなって、どう続こうとも、また仮にすぐに終わってしまおうとも、いい夢に乾杯し続けるんだ。これまでみたいにね」 「ふーん。つまり、これからもラガヴーリンは必要ということね」 「そういうことさ。いい夢に乾杯」 「いい夢に乾杯。…ありがとね」     
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