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静華はレコードプレイヤーのスイッチをオンにして、ターンテーブルに乗ったままになっていたレコードをかけた。
何かの、古いJAZZのレコードだった。
ウッドベースの重低音とトランペットの抑えた音の響きが、とても心地良い。
「誰のレコード?マイルス?いや、違うな。まるで聴いたことのない曲だし、演奏だな」
「アンティークを愛好してたあの人は、古いレコードも大好きだったの。これは限定100枚しかプレスされていない、大昔にたった一度だけ、ニューオリンズの小さなジャズクラブで、全く無名のグループが演奏したものを録音したレコードだって言ってたわ。自主制作盤だからか、曲名とかミュージシャンの詳しいクレジットもないのよ」
「へえ、そこまで無名のグループの演奏とはとても思えないな。すごくいいよ」
「今流れてるのは、私が勝手にずっと「ミッドナイト・ブルース」って呼んでる曲よ。出会った頃、あの人と毎晩、真夜中にずっと聴いた曲」
「ミッドナイト・ブルース」を聴きながら、静華がとても美味そうにラガヴーリンを飲み干した頃、外からパトカーのサイレンの音が聞こえた。
サイレンの音は、そのうち邸の前で止んだが、俺は静華と「ミッドナイト・ブルース」を聴きながら、最後の乾杯をした。
「いい夢に乾杯」
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