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「私もある筋に頼まれてのことでね。公に出来ない調査なんだ。料金はかなり弾むということだし、それならあんたが適任だと思ってね。だいたいあんた、引退するのはまだ早いよ」
「ある筋とやらの種明かしをしてください」
「そいつは勘弁してくれ。幾ら相手があんたでもな」
「うーむ、まあこんな辺鄙なところまで御足労願ったわけだし、今回だけですよ、あなたの顔を立てるのも。本当にこれが最後だから」
「悪いね。じゃあ後はよろしく」
爺さんは楽しそうな声でそう言うと、さっさと電話を切ってしまった。
俺は仕方なく、この美人の浮気調査依頼を受けることにした。
調査は簡単だった。
わりと大手のIT企業を経営する、ブルックス・ブラザースのスーツが似合う、フローシャイムのインペリアルなんてヴィンテージシューズを履いている美人妻の旦那は、クソみたいに女好きのパリピ野郎で、毎晩に近く仕事が終わると飲み歩き、知り合ったばかりの派手な女とラブホ街に消えて行ったり、キャデラックのコンヴァーチブルの助手席に金髪の女を乗せてドライブなんてのを繰り返していたからだ。
別に探偵じゃなくたって、このパリピ野郎のそばに数日いれば、浮気の証拠写真なんて誰でも撮り放題の案件だった。
こんな素人でも出来る調査に、相場の3倍の料金を支払う奴の気が知れないが、そうせざるを得ない事情が美人妻の方にあるということか。
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