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「あなた方が森から戻ってきた時のことです。あの時、あなた方は並んで一緒に戻ってきましたが、その姿が、何というか、単なる恋愛感情のない赤の他人同士の男女には、どうしても見えなかったんです。少なくともあなたには恋愛感情が感じられた」
「私は喜多川に恋愛感情なんかありませんよ。そりゃ幼馴染だし、無理に誘われて関係したことは認めますが、でも喜多川に対して特別な感情なんか持っていません。だから喜多川を匿ってなどいませんよ」
「しかし、あの時のあなたの姿は、明らかに愛する者に接する姿だと思いました」
「それは勝手な憶測というものです。私は喜多川など愛していません」
「ええ、それはわかります」
「え?どういうことですか?」
「だから、あなたと喜多川が愛し合っているとは思っていません」
「あの、仰ってることの意味がよくわからないんですが…」
静華は不思議そうに俺を見た。
「あなたが愛していたのは、あなたの旦那さんだけですよ」
「えっ?」
「あの時。森から戻ってきた二人の男女は、森に入った時と同じレインコートを着ていましたが、あれは、あなたと旦那さんですよね?」
「ち、違います」
「あなたとキャデラックでホテルに行き、その後森まで行ったのは、あれは確かに喜多川です。しかし森に着いて、二人が車から出てきた時の感じと、森から出てきた時の二人の感じが随分違うなと思ったのを覚えています。これは長年浮気調査をやって来た、しがない元探偵の勘に過ぎませんがね」
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