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「どういうことですか?」
「あの時。私は森の中まで尾行したんです。しかし木々に身体が触れた時の音であなたたちに気づかれるのを恐れて、かなり距離を取って尾行していました。すでに、あなたと喜多川が、旦那さんの死体を埋めに来たのだと確信していましたからね」
「その通りですわ。私は喜多川に夫の死体を埋めるのを手伝わされました」
「いいや、あの時埋めたのは喜多川の死体ですよ。あなたと旦那さんで喜多川の死体を埋めたんです」
「そ、そんな馬鹿な」
「あの森の中を尾行していた時、不意に激しい擦過音が響いた後に、呻き声が聞こえた気がしました。私は驚いて、少しあなたたちに近ずきましたが、そこにはレインコートのフードを被った男と女が変わらず立っている後ろ姿が見えただけだったので、てっきり特に何事もなく、そこには喜多川とあなたが立っているものだと思いこんでいた」
「私と喜多川がそこに居ただけですわ」
「いや。あの後ろ姿は、あなたと旦那さんの後ろ姿ですよ。あの時の激しい擦過音は、喜多川が森の中で死体のフリをして倒れていた旦那に刺された時に発した音でしょう。そして、あの時の呻き声は、喜多川の口から漏れた絶命の悲鳴だった」
「そんな…」
静華は顔を伏せた。
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