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2階から1階に降りていく途中、ふと窓から、戸外の景色を眺めた。 地上に咲いている、手入れの行き届いたこの邸の庭の、彩り豊かな花々や、緑の美しさがすぐ目に飛び込んで来たが、庭の柵の向こう側に、見覚えのある大柄な男が、立って煙草を吸っているのが、階段の俯瞰からチラッと見えた。 その横には、年代ものの黒いキャデラック フリートウッドブロアム エレガンスが見えたが、奴が乗って来たものだろう。 こいつは、ある組織の幹部の喜多川という男だ。 前に会ったことがある。 俺の刑事時代にだ。 あの頃はまだ、幹部ではなかったが、当時から抜け目のない野郎だった。 奴が何であんなところで油を売っているのか?と言えば、たぶん俺を見張っているのだ。 旦那のIT社長に頼まれたのか? ということは、旦那は喜多川の組織と繋がっていることになる。 だが今、旦那はいない。 まあ喜多川がせっかくあそこで突っ立っているのだから、奴に直接聞いた方が早い。 どうせ、商売柄、その真意を俺に話しはしないだろうが。 俺は静華に、邸の中にいるように告げ、中折れハットを目深にかぶり直してから、やたらと金のかかったバカデカイ玄関の扉を開けて外に出た。 「先公に隠れて煙草吸ってた高校生に戻った気分はどうだ?」     
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