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マンションに戻った。あれ以上ホテルにいることに意味は無い。蓮はとにかくジェイの心を軽くしたかった。
「何もしなくていいから」
上着を脱がせてネクタイを解き……そこまでしてジェイの激しい抵抗に驚いた。
「自分でやる!」
「どうしたんだ?」
「………」
「言わなきゃ分からないよ、ジェイ」
「……あの人に……脱がされたから…思い出したんだ、それを。ごめん……」
頭を引き寄せた。
「いいんだよ、お前が悪いわけじゃないんだ。ごめんな、配慮が足りなかった。泣きたかったら泣け。抱え込むな」
「れん……俺、俺ここを出て……」
「それは絶対にだめだ! 辛いなら尚更一緒にいなきゃだめだ、独りになんかなるな」
強い語調を緩めた。
「俺はな、お前に幸せになってほしいんだ。いつもそう言ってるだろう? 今日と明日はお前の好きなようにしよう。来週のことは後で考えよう」
抱き締められたまま頷いた。
(蓮が……好きなのに。なんで? 俺が誘った……誘った……)
深く潜った棘が抜けない。自分の中に知らない自分がいる。
こんな自分がどこにいたのか。幻の自分に苛まされて行く。無い影を自分の中に感じてしまう。
「ジェイ、明日、どこか行こうか」
「……行く?」
「ああ、ドライブしてさ、気晴らしして来よう」
「……うん……」
連れ出そう。外の空気を吸わせたい。風に当たれば気持ちも解れるだろう。
その夜はただジェイを抱きしめて眠った。
(何もしない……俺、汚いから……?)
ただ抱きしめるだけの蓮が悲しかった……
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