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ジェイを思うから抱かなかった、傷を抉るかもしれないと。それがジェイを不安にさせた。
「いいのか? 抱いてもいいのか? 俺はお前に拒まれるかと思ってたんだ」
「俺が?」
「イヤな思いしたんだ、だから辛いかと」
ぎゅっと掴んだ蓮の体を。
「違う……抱いてほしかった……でも言えなくて」
「ジェイ……悪かった。気を回し過ぎたんだな、俺は。お母さんにまた来るからって挨拶してこい。帰るぞ」
「マンションに?」
「ばか、ベッドにだ」
途端にジェイの顔が赤らんだ。
「なんだ、他のどこに帰るっていうんだ? 車ではイヤだぞ、窮屈だ」
「ばかっ、そんなこと言ってない……」
小さな声で言い返すのが可愛くてここで押し倒したくなってしまう。
「ほら。待ってるから、挨拶」
ジェイが墓前に祈る姿が湿った空気の中にくっきりと浮き上がった。巻き毛が濡れているせいで長髪に見える。
(始めの頃より大人っぽくなってきたな)
あの突っ張っていたジェイはどちらかというと子どもっぽかったように感じる。精一杯突っ張っていた子ども。そして牛乳割りを飲んだ時の子ども。
でも今は自分を惹きつけてやまない若者だ。
車の中で濡れた服を脱がせた。自分の上着を渡す。ヒーターをつけた。
「途中で着る物買ってやる。風邪引いたら困るからな」
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