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(良かった、元気そうだ)
午前中は花に引っ張り出される様子やバタバタしているのを見ていたから心配だったが、午後は落ち着いた顔で仕事をしていた。
池沢が必要以上にジェイを面倒見ているのが若干気になる。あの事件がきっかけで特別視することになるのは困る。
午後一で池沢と目が合った時にそばに来るように合図を送った。
「どうしました?」
「ジェロームの様子はどうだ?」
「大丈夫ですね。昼もみんなで食べに行ったんですが誰もあの件は口にしなかったんで穏やかなもんでしたよ」
「そうか、ならいい。お前はどうなんだ? 何か気にしていることがあるのか?」
「あの……」
「どうした?」
「課長と一緒にいたんですよね、休んでた間」
「ああ」
「いつです? 自殺図ったの」
「自殺? 誰が!」
「ジェロームですよ! 首、刺したんでしょ?」
(それで過剰反応していたのか)
「違う、あれはあいつがおっちょこちょいでケガしたんだ」
「へ? 自殺じゃなくて?」
「そんなことするなら出社させない、病院に連れて行ってる」
「……そうですよねぇ! そうか、違ったんだ! 俺てっきり……いや、安心しました!」
「それで気を遣ってたのか」
「ええ、ちょっと」
「大丈夫だから気合入れてやってくれ。じゃ、頼んだぞ」
他にもそう思った人間がいるんだろうか。
(そうか、だから朝、花が慌てて引っ張ってたんだな)
いちいちケガの説明をして回るわけにはいかないし、ケガの理由だって聞かれたら困る。
(キスマークを削ろうとしたなんて言えるか!)
だから後は放っておくことにした。
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