第01話 母と子

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 そして酔いが回ると、 「瞬夜(シュンヤ)…… お金…… もう少しで帰れるから」  そう語り、溢れた涙をこぼし切ると疲れ静かに眠るのだった。  地図上の海に浮かぶ小さな島国。  母に教わる夢のような故郷(ふるさと)の話。  毎日のように聞かされた遠い遠い国の物語。  幼い少年の小さな想像力では、その国に特別な憧れを抱く事は出来なかった。  雪の無い冬も、暖かい毎日も、飢えの無い食卓も見た事が無いのだから。  けれど、笑顔の母とそこで暮らしていける場所があるのなら。  涙に濡れたまま寝かせずに済むのなら。  それはどんなに幸せな事なのだろう。  少年は母に布団をかけ直すと、頬にそっと口づけをして隣で眠った。  朝、目が覚めると母は既に朝食の準備をしていた。  寒そうに凍えているのを見ると、ベランダの冷凍庫から野菜を持ってきたのだろう。  と言っても、何か物が置けるようなベランダがある訳では無い。  あったとしても、雪が積もってアパートが傾いてしまうだろう。  窓の外にある鉄格子に、スーパーで貰ったビニール袋を固く結びつける。  その中に野菜や肉等を入れておけば数時間で勝手に凍る。  すぐそこに天然の冷凍庫があるのだ。     
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