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そして酔いが回ると、
「瞬夜…… お金…… もう少しで帰れるから」
そう語り、溢れた涙をこぼし切ると疲れ静かに眠るのだった。
地図上の海に浮かぶ小さな島国。
母に教わる夢のような故郷の話。
毎日のように聞かされた遠い遠い国の物語。
幼い少年の小さな想像力では、その国に特別な憧れを抱く事は出来なかった。
雪の無い冬も、暖かい毎日も、飢えの無い食卓も見た事が無いのだから。
けれど、笑顔の母とそこで暮らしていける場所があるのなら。
涙に濡れたまま寝かせずに済むのなら。
それはどんなに幸せな事なのだろう。
少年は母に布団をかけ直すと、頬にそっと口づけをして隣で眠った。
朝、目が覚めると母は既に朝食の準備をしていた。
寒そうに凍えているのを見ると、ベランダの冷凍庫から野菜を持ってきたのだろう。
と言っても、何か物が置けるようなベランダがある訳では無い。
あったとしても、雪が積もってアパートが傾いてしまうだろう。
窓の外にある鉄格子に、スーパーで貰ったビニール袋を固く結びつける。
その中に野菜や肉等を入れておけば数時間で勝手に凍る。
すぐそこに天然の冷凍庫があるのだ。
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