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「おはようママ。野菜は僕の仕事でしょ?」
そう目をこすりながら母のいる台所へと向かう。
が、母が野菜を取るのに苦戦したのだろう部屋の中は少し肌寒かった。
少年は予定を変更し壁に置かれた暖房の近くに行き手を温める。
アタプレーニエと呼ばれている暖房は幾層にも折れ曲がった水道管で壁に貼り付けられている。
そしてそれはアパート全体と繋がっていて温水を常に流し各部屋を暖めていた。
貧乏なこの家でも使える程に安く経済的であったが、しかし、アパートが古いせいかいつも温度が足りず、少しでも窓を開けると冷え込んでしまう。
「ごめーん。寒かったよね」
母はそう言いながら少年に駆け寄ると後ろから抱きしめ温めた。
「ううん。でも朝ごはんくらい僕だってやるよ」
母の手を握るとまだ冷たかった。
少年には母に負い目があった。
元々、この地では綺麗な黒髪の母は目立っていたし、遠目から見ても異国の人間である事は間違いないし近くで見れば尚更。明るく細かい事に気がつく性格に大きな瞳の母は、多くの大人を知らない少年にとっても自慢だった。
けれど、明らかに貧しい身なり。
そのギャップもあってか、今思えばくだらない嫉妬もあったのだろう。
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