第01話 母と子

5/11
前へ
/247ページ
次へ
 上を見れば屋根の近くに巣があったが、とても手が届きそうにない。  落ちた際に軽い怪我もしていたようだ。  治療の為、そっと家に持ち帰ると少年は目を輝かせて喜んだ。  傷口を消毒し餌を与えた。  元気になったら自然に返してあげようと名付けなかった。  やがて、回復と成長により、少しずつ部屋の中を軽く飛び回る事が出来るようになった。  まだ黒い産毛は残っていたけれど、厳しい冬を待つ訳にはいかなかったから。  二人は天気の良い日を選び、森近くの公園を訪れた。  名付けなかったものの情は沸いていた。  初めて育てた小さな命だったのだ。  母に肩を抱かれるまで、少年は動く事が出来ずにいた。 「元気でね」  そう語りかけ優しく空へとうながす。  小鳥は青空へと駆け上がった。  しかし、気持ちよさそうに数回旋回しては見せるのだが、小鳥は少年の元へと戻ってきてしまった。  困った顔で覗き込む母には 「ちゃんと帰って来てるのに。何を怒られているのだろう」  そう不思議がっているようにさえ見えたという。 「ダメだよ。頑張れ!」  飛ばせては戻る。そんな行為を楽しんでいるようにさえ見える。  何度試しても、少し飛んでは少年の頭の上へと戻ってしまうのだ。  自然に返してあげなきゃ。  しかし、帰って来てしまう。     
/247ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加