13人が本棚に入れています
本棚に追加
力強い覚悟を決めここに来たはずの。
その、まだあどけない顔を、涙と鼻水でびちゃびちゃにした、ご主人様の元へ。
母子は週に何度かそれを繰り返した。
ただ鳥を散歩させているだけのように思えて来た。
そして冬が来た。
鳥は少しだけ大きくなり、黒かった体を美しい青色に染め上げた。
母はその鳥に「シーニィ」と名付けた。
それは少年が覚えた最初のロシア語となったのだった。
母が朝食の支度へと戻る。
手伝おうとその後に続こうとした少年の頭に鳥が止まった。
「ママ、シーニィにご飯あげた?」
野菜を切る包丁の手が止まった。
「ごめんっ」
母はゆっくりとパン屑の入ったビニール袋を手渡し謝った。
「も~」
そう少年がふくれて見せた時、青い鳥は飛び上がり、今度は母の頭へと着地した。
「ママ、シーニィ怒ってないって」
「シーニィありがとうね」
二人は向き合い大きな声で笑いあった。
シーニィは少年にとって初めての友達になった。
名前をつけたあの日。
母は小さな鳥籠を買って来てくれた。
シーニィが少年の傍を離れる事はほとんど無かったのだが、家を出ては寒さに凍えてしまうし、小さすぎるその体の場所を常に気にかけて生活する事は出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!