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第二章 不運は不運を呼ぶ
家に帰ると妻が真っ暗な部屋でテレビを見ていた。その異様な光景は、今日、自分がリストラにあったことを知っているぞと脅さんばかりの雰囲気を漂わせていた。祐一は、一瞬、ドキリとしたものの、かえって気が楽になった自分を感じていた。家族と言っても今や嫁と二人暮らし、贅沢さえしなければ当面は食っていける。そう悲観することもない。
「俺、今月末でクビだって。突然過ぎて驚いちゃうよね。なーに、年金開始の六十五まで後十五年。退職金の二千万を単純に十五等分すれば年に百三十三万、月あたりでは十一万。持家だから家賃もかからんし、月十万ぐらいをアルバイトで稼げば、合わせて二十万。なんとかなるだろ」
「本当に分かっている。うちのローン、おとうさんが六十五になるまであるのよ」妻が鋭い眼差しを向けた。
ローンの残高返済で一千万が消えた。年金開始まで月額五万ではとてもやっていけない。この年では、正社員は無理と諦めはしていたが、少子高齢化の影響で、若年労働者不足に喘ぐ日本。アルバイトの口ならいくらでもあるだろうと高をくくっていたが、ここでも年齢を盾に断られ続けた。どうやら、中高年には若年層枠の仕事は任せられないらしい。二年も経たずして、退職金と失業保険を食いつぶし、残ったのは我が家のみ。家があっても、シロアリじゃあるまいし、収入ゼロでは食ってはいけない。仕事を探すにしろ、我が家は住宅地のど真ん中。サラリーマンのベッドタウンとしては申し分ないが、日々のアルバイトで生活の糧を得るには、フットワークがあまりにも悪い。職探しにハローワークを往復するだけで一日分の食費がぶっ飛ぶ。
「このうち売って、街中にアパート借りようと思うんだ。その方が働きやすいし」
「そうねえ、じゃあ、あたしも出るわ、この家」
「意気投合だね。こんなにお互いを分かり合えたのって、新婚の時以来じゃないかい」
「じゃあ、ここにハンコついて。私、財産はいらないから」
妻は祐一の目の前に離婚届を差し出した。
「そんな・・・」
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