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第四章 家族との思い出
祐一は妻の美紗緒と、美紗緒との間に出来た一人娘の亜弥との三人暮らしだった。祐一が母親との同居を始めたのは、娘の亜弥が小学校に上がる頃だった。ちょうどその頃はバブル経済が崩壊し、天まで届かんとばかりに上昇した不動産価格が猛烈な勢いで下落し始めた時期でもあった。誰もが下落する不動産を一刻でも早く現金化しようと焦っていた。
そのきっかけを作ったのは、一本の電話だった。
「祐一、お前そろそろ落ち着いたらどうだい」
「なんだい、母さん。俺は会社にもちゃんと勤めているし、所帯だって持っている。もう落ち着いているさ」
「そうじゃなくて、家だよ、家。お前、今でも借家暮らしだろ」
「まあそうだが、別に不自由はしてないしさ」
「いい家見つけたんだ。どうだい、来週の日曜にでも見に行かないかい。美紗緒さんと亜弥ちゃんも連れて来ればいい」
母親の話によれば、バブル崩壊で自己破産に追い込まれた債務者の家だから安く購入出来るというものであった。
「それって、競売物件でしょ。競売物件って、債務者や債権者が居座っていたり、結構やっかいだって聞くよ」
「キョウバイ。よくわかんねえけど、知り合いの不動産屋さんが仲介してくれっから大丈夫だ」
祐一もよくわからなかったが、不動産屋さんが仲介してくれる以上、家の引き渡しは不動産屋さんが責任を持ってやってくれるだろうし、
それ以上に、母親の交友関係の広さに信頼を置いていた。
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