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第五章 マイホーム
「ママ、お庭で遊んで来ていい」
その家は小さいながらも一軒家、前の人にも小さな子どもが居たらしく、庭には小さな砂場と滑り台があった。美紗緒も庭に駆け出す我が子を止めることができず、即決で新居の購入が決まった。もちろん、知り合いの不動産屋さんからの紹介と言えども一軒家、しがないサラリーマンの祐一には高嶺の花。全額ローン返済できる力もなく、母からの資金援助の要請を無碍にすることも出来ず、妻を強引に説得し、母との同居生活を始めざる終えなかった。
二年前に親父が亡くなって以来、母も一人暮らし。この先も、一人暮らしを続けて自由で孤独な独居老人の道を歩むか、息子夫婦と同居し不自由でも安心な家畜老人の道を歩むか、母もその選択に迫られていたのだった。母は後者の道を選び、親孝行の大義名分の元、その選択に甘んじたのが祐一というくだり。
運命は変えられないが、人生は変えられる。なぜなら運命には選択肢はないが、人生には選択肢があるから。少し違う気もするが。
子が夫婦のかすがいなら、孫は嫁姑のかすがい。誰しもが描く幻想を母も描いていた。亜弥は小学校にあがると、近くのピアノ教室に通いだした。近くと言っても大人の足での話であって、子供にとっては幾千もの道のり。誰かが付き添ってやる必要がある。母はこの役割を自ら買って出た。
「ばーちゃん、アイスクリーム」
育ちざかりの幼子は習い事より、甘いもの。教室の生き帰りでしきりに買い食いをせがみ、母はその都度、盲目的に要求に応じた。
ばーちゃん子にならないといいのになあ。これで我が家は嫁姑戦争とは無縁だ。祐一は平穏なその光景に安堵を感じていた。
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