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第1章 ネコの王様と幽霊
川の畔で、ゆっくりと瞼を開けた。
視えた赤い風景に驚いて、急いで左目を髪で覆う。
この左目は誰にも見られてはいけない。
見てしまった者は皆、死んでしまう。呪われた目だ。
呪いの目だと分かった時には、もう遅かった。それを今、悔やんでも仕方のないことだけれど……。
立ち上がって、顔を洗いに水面へ向かう。
近くでは小人たちがえいっほえいっほと掛け声に合わせて水くみに並んでいたり、木々の間を光の精霊たちが見え隠れしている。
そんな様子を見て、小さく笑った。
よく見る光景だが、これほど平和な背景はない。
両手でたっぷりと水を掬い、顔を洗う。
手拭いで顔を拭いて、髪についた水を払おうと顔を振ると、見ていた精霊たちがきゃっきゃっと笑った。
「笑うほどでもないだろう……」
笑われたのを少し頬を赤らめて、手拭いで顔を覆う。
ニ、三度また顔を拭いてから、ポケットから取り出した眼帯を左目に付けた。
眼帯と、髪で左目を覆う、万が一の為だ。
「久々に帰るからなぁ……あいつ、元気にしてるかな」
そう、今は旅の帰り道だ。
何年ぶりになるだろうか。
きっと、あの“ネコの王様”は退屈しているだろう。
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