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緑深い森の中で、たった一色、異色が彷徨っていた。
白というより、土や埃、葉や草で汚れた色をしている。
長いその白は地面を這って、枝や根に引っ掻けながらも這い続けた。
白の間から見える、人の腕と脚。
薄汚れて、ちらちらと赤く、出血しているように見える。
力ないその足取りは、どこへ目指しているのかも分からず、ただ足を動かしていった。
きっと、立ち止まってしまえば、崩れ落ちてしまうほどに弱々しい。
長い草木の道を抜けて、髪越しでも分かるほどに、強い日差しに打たれた。
髪の間から出した腕で日を遮り、隙間から辺りを見渡した。
丘の上に建つ古そうなレンガの大きな筒状建物。
苔が生え、屋根から蔓が降りている。
誰も居ないだろうと踏んだ白は建物に近づいた。
どうして、こんな森の中に、と頭に横切るが、そんな些細な事を気にしているほどの力はなかった。
扉を今ある力で押す。
ギィィィ……と錆の擦れる音と扉の軋む音がした。
「……わ……ぁ…………」
外装とは見間違えるほど、内装は綺麗に片づけられ、たくさんの本棚が並んでいる。
下から上まで詰められた本。
ここは図書館か何かだったのだろうと思った。
本棚に凭れて、覚束ない足取りで奥の部屋へ進んで行く。
だが、カチッと一冊の本に触れた時、本が奥へ押され、機械が作動した。
本棚が動き、突然現れた階段にもたついた足が滑り、転げ落ちる。
白は上の方で猫の鳴き声が聞こえたけれど、瞼を開ける力も残っておらず、そのまま意識を飛ばした。
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