かくしごと1

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「恐ろしい世になったものね」 「このご時世、外に出るのは危険ですからな。大人しくしておくに限ります」 「それではつまらないわ」 「それはそれは。はは、やはりあなたは気丈な方ですな」  彼女は悪戯っぽく笑いながら、懐から小さな鈴を取り出した。 「あなたがくれたこの鈴守り、ずっと持っているの。きっと敵から守ってくれるわ」  彼女の言葉を聞いて、私の口の端が自然につり上がった。 「そう、それがあれば大丈夫ですから。私の言った通りに肌身離さずにもっていらしてください」 彼女は悪戯っぽく笑いながら、懐から小さな鈴を取り出した。 「あなたがくれたこの鈴守り、ずっと持っているの。きっと守ってくれるわ」  彼女の言葉を聞いて、私の口の端が自然につり上がった。 「そう、それがあれば大丈夫ですから。私の言った通りに肌身離さずにもっていらしてください」 「うん、あなたはこういうのも得意なのね、知らなかった」 「お守り作りは独学ですが、あなたのために、励んでいるんですよ」  それだけは本当だった。 「大切にするわ」  彼女はそういうと、鈴守りを大事そうに握りしめ、また懐へとしまった。    のどかな日差しの中で庭をしばらく二人で歩いていると、彼女が小さくくしゃみをした。 「掛け物が薄かったですね、寒くなってまいりましたしもう戻りましょう」 「あなたもお勤めが忙しいでしょう? 私がこんなになってしまったばかりに、不甲斐ないわ」  私は彼女の背中をさすりながら力強く言った。 「何をおっしゃるんです、気を遣わないで」 「私、治るのでしょうか」  彼女がぼそりと心もとなげに呟く。細くしなやかな体がいつもより小さく見える。 「ええ、よくなるに決まっている。絶対によくなります」  私は力強く言った。しかし、彼女はふっと微笑んだ。「本当に? 完全に、治るのですか?」 「……ええ」 「かくしごとが下手ね。今だって、ほら。すぐに目をそらしてしまう」 「きっと近いうちに床上げができます」  視線を伏せたままそれだけ言い、彼女を抱え上げる。 「あの、これだけは言っておきたくて」 「何です?」  いつになく真剣な彼女の目が私を射る。 「この先、私の身がどうなろうとも、あなたを愛しています」 「……ええ、私もですよ」  彼女はそういうとまた笑顔になった。
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