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目の前で大きな汽笛音と、強い風が吹いて、大きな物体が空を塞いだ。
電車が到着したのだ。
目玉が飛び出るほど驚いて、息を呑んだ。
思わず一歩下がる。と、後ろの人にぶつかった。
スーツを着た、禿頭の中年男性だった。
睨まれる、舌打ちをされる。
いつの間に並んでいたんだ。
「す、すみません……」
反応はない。
私のことなど、もうどうでもいいのだ。
いないのと一緒。
ならばどうして、この人は私の後ろに並んだのだろう。
開いたドアから何人か出てくる。
それを見送ってから、車内へ。
椅子は空いていないようだ。
入り口の脇に立つ。
今日は本当についていない。
車窓から、もう一度空を見上げる。
さっき堕ちていったアイツのことを、悲しんでいる人はいるのだろうか。
流れ星に願い事。
なんて、そんなことを本当に信じたまぬけな子どもが、祈りを捧げているのだろうか。
そんなことを考える。
もしも私がいなくなった時、悲しんでくれる人は、いるのだろうか。
もしも私が線路に飛び込んで魂を消失した時。
祈りを捧げる人は、いるのだろうか。
……やめておこう。
暗いことばかり考えていてもしかたない。
そうやって、なかったことのようにして、私は。
私は。
電車が、走り出した。
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