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第二章 翔子との幸せな日々
翌日から女との共同生活が始まった。
「今日の水揚げもノルマに届かなかったな」
雅人が家路につくと、食卓の方からいい匂いがしてきた。
「シチューはお嫌い」
女が怪訝な顔を向けた。雅人は、慌てて被りを振った。
「名前、どうしようか」
「あたしの・・・」
「そうだ、翔子ってどう、空港で出会ったのだし・・・」
それから、日を追うごとに、二人は打ち解けて行った。
でも、翔子の記憶は一向に戻らなかった。
そんなある日、二人は駅前の喫茶店に入っていた。
「あいつだ、翔子の鞄を盗んだ奴」
雅人は、窓越しを指さすと、促す様に翔子に顔を向けた。
しかし、何故か翔子の姿はそこにはなかった。
「翔子、何処にいったのだ・・・」
喫茶店を出てあたりを探したが日暮れになっても見つからず、諦めて家路についた。
テレビのスイッチを入れると、例の引っ手繰り男が殺害されている姿が報道されていた。
「翔子は事件に巻き込まれたのではないだろうか」
明け方近くまで、うとうとしていると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると、翔子が立っていた。
「ごめん、疲れているの・・・」
翔子は、雅人を押しのけるようにして中に入ると、そのまま寝込んでしまった。見ると、右手にバックを掴んでいた。どうやら、取り返したらしい。
あれ以来、翔子の様子がおかしい。自分が出勤すると直ぐに外出しているようだ。
外で、男とでも会っているのだろうか。この気持ちは嫉妬だろうか。もし、記憶が戻って昔の男と会っているのであれば、それはむしろ喜ぶべきことではないのか。雅人は、複雑な気持ちでハンドルを握っていた。
「いてっ、なんかケツで踏んづけたぞ」
シートに手をやると、金属編らしきものが手にあたった。
「何かのメモリチップか・・・」
雅人はそれを胸ポケットにしまった。
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