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第三章 助かったのは誰
それからまた何日かが過ぎた。その日は、早く帰宅したが翔子の姿はなかった。
微かではあるが、発進音のようなものが聞こえてくる。気になって、その音の発信源を探した。部屋の隅にある翔子の鞄が目に留まった。どうやら音はこの鞄からしているらしい。雅人は、ゆっくりとその鞄に手を伸ばした。
「触らないで・・・」
横から伸びた手が鞄を引っ手繰った。翔子だった。
「なんだ、居たのか」
「これは、危険なの・・・」
翔子は鞄の中から赤く点滅する発信機のようなものを取り出した。
「近くにいるわ」
「何を言っている・・・」
「あたしは、バイオロイド913。二十三年後の世界から、あなたを助けに来た」
「翔子、気は確かか・・・」
「気は確かよ、喫茶店であの男を見つけた時、記憶が戻った。そして、これを奪い返した」
「その発信機は何なのだ。ゾイド生命体をおびき寄せる装置。ゾイドは人を宿主とする寄生エイリアン。取りつかれた人は、心身共に乗っ取られる」
「どうやってやつけるんだ」
「ウイルスみたいなものだから、火器や銃器では殺せない。あたしの体内ウイルスで抹殺する。発動するにはメモリチップがいる。でも、どこかで亡くした」
「これのことか・・・」
雅人は胸ポケットからメモリチップを取り出した。
「これだわ」
翔子はメモリチップを掴みとると、雅人に抱きついていきなりキスをした。
「驚かすなよ・・・」
キスを終えた雅人は、嬉しそうに笑顔を見せた。そして、突然、口から血を吐いて倒れた。
「メモリチップは、ゾイドに取りつかれた人に取り付く識別タグ。まんまとワナに嵌ったわね」
雅人の体は、溶けて跡形も無く消えた。
「バイオロイド913、ミッション完了」
翔子は、声だかに叫んだ。
「でも、寄生前に助けられないものかね・・・」
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