第一章

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第一章

 いよいよ、ザンペル星人との決戦の時が近い。基地全体に、かつて無いほどの闘志が漲っていることを、俺はひしひしと感じていた。地球人と見た目がそっくりなウラス星人が受けた、ザンペル星人からの残虐な仕打ちに、誰もが怒り、同情し、彼らを奴隷の境遇から救い出そうと、それぞれが自分に出来る手を尽くそうとしている。  だが俺はと言えば、周囲が盛り上がれば盛り上がるほど、却って何となく気持ちが白けていくのを感じるのだった。もちろん、この戦いが地球の運命を決める、重要な戦いだという事は理解しているし、何としても勝たなくてはウラス星と同じ末路を辿る事になるのも重々承知している。だから雰囲気に水を差すような真似はしないし、戦いに備えて自分に出来る準備を怠るような事もしない。それでも…。  もしかして、俺たちは犠牲者が人間にそっくりだからと言う理由だけで怒ってはいないだろうか?仮に二つの惑星が逆の立場だったら、俺たちはここまでの怒りを、人間型宇宙人に対して抱くことが出来るだろうか?  いい加減、もやもやした気持ちを抑え切れなくなった俺は、思い切って同居している猫型宇宙人のミーに、話をぼやかして意見を聞いてみることにした。ミーの故郷も、対立していた二つの勢力が起こした内乱で滅んでいる。もし、自分たちの星を滅ぼした相手が誰なのか、それがはっきりしたら…?  「復讐なんて意味が無いにゃ。」ミーの答えはあっさりとしたものだった。「今更そいつを倒しても、故郷は戻って来ないにゃ。誰かを恨んだり、憎み続ける事は生きていく上で大切な力の源になるかも知れにゃい。でも、いつまでもそんなものに頼っていたら、そのうち、それが生きる目標になってしまう…そんなのは嫌だにゃ。」  我ながら酷な言い方ではあるが、ミーの場合、同族同士の殺し合いの結果だから、そんな風に割り切れるのかも知れない。そうは思いながらも、俺の心の中に、その答えは妙な存在感を持って居座り続けていた。  そして程なくして、とうとう早期警戒衛星システムに、地球に向けて侵攻する数十機からなる円盤部隊の姿が捉えられたのだった。
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