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「申し訳ありません。前金の払えないお客様には、商品の取り置きは出来かねます……」
「何だって! 畜生!」頭を掻き乱す客。「いくらか負けてもらえないか?」
「値段交渉はご遠慮いただいでおります……」
「チッ! バイト代と貯金をはたいても全然手が届かないじゃんか。何だよ二六四万円って……クルマが買えるじゃん……」
ごもっともです、と時花も胸の奥で同意した。
しかし、根っからの時計マニアならば、そんな難癖は付けないだろう。価値の判らない人間がマニアであるはずがない。
――詳しいようで、実は詳しくない。
彼の時計への情熱は、どこから生じたのだ――?
「と、とにかく売らずに残しておけよ! 七月二〇日までには買うから! じゃあな!」
学生は居たたまれなくなったのか、脱兎のごとく店を退散した。
かと思いきや、外のショー・ウィンドウに貼り付いて、未練がましくオメガのコーナーを凝視していた。去り際も名残り惜しそうに何度も店を振り返りながら、やっと遠のく。
「な、何だったんでしょうか……」
謎多き客人に、時花は首を傾げるしかない。
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