第一幕 月に降りた腕時計

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裏蓋(うらぶた)をご覧下さい。ここにオメガの刻印と、シリアルナンバーが記されています」  店長が腕時計を引っくり返した。彼女は恐る恐る顔を寄せる。 「あ、本当ですねっ。当然のごとく英語で書かれてます……えーと、なになに」 『1969 APOLLO(・・・・・・) XI(・・)‐OMEGA SPEEDMASTER‐』  …………。  …………。 「アポロ十一号(・・・・・・)?」  時花はぽかんと口を開けっ放しにする。 (え? これってまさか……?)  汗がだらだらと滝のように流れ落ちた。 「気付きましたか?」白い歯を見せて笑う店長。「一九六九年は、アポロ十一号が人類初の月面着陸を果たした年ですよ」 「ええええ! じゃあ、その宇宙飛行士が装着してた腕時計――」 「の、複製品です」 「――なぁんだ」  肩透かしだった。いや、それでも充分に貴重な逸品だが。  店長はさらに補足する。 「これはアポロ十一号モデルBA145.022‐69。月面に立った宇宙飛行士バズ・オルドリン氏が着用していたスピードマスターにちなんで、オメガ初のゴールドモデルとして複製品が限定生産されました。別名『ムーン・ウオッチ』です」
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