序幕.プロローグ

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序幕.プロローグ

「さぁ、解答編の始まりです。()計のトラブルならお()せを。この時任(・・)(きざむ)が、悩みを解きほぐしてご覧に入れます」  店長の時任(ときとう)が、営業スマイルで宣言した。  猫の額ほどの中古時計店に会した全員は、固唾(かたず)を飲んで見守っている。 「今回、当店の商品が何者かに盗まれそうになりました」  店長は一人の女性客にてのひらを差し伸べた。 「あなたは毎日、当店へ足を運んでいらっしゃいましたね? 防犯カメラの記録からも明白です。また、通販サイトにもIPアドレスが残っています。あなたは、当店にある腕時計が欲しくてたまらなかった……風師(かざし)さん、現物をここに」 「はい店長」  風師と呼ばれた若い女性店員が、商品を携えて来た。  ロレックスの高級腕時計・GMTマスターだ。ベゼル部分にダイヤ、サファイア、ルビーをあしらった豪華な逸品は、中古でも一千万円を下らない。 「そ、それはわしが店に売った時計ではないか!」  一人の老人が声を荒げた。()せ衰えた骨と皮だけの御仁は、女性客を呆然と見据える。 「我が孫娘よ! まさか時計を取り戻そうとしたのか?」 「だって、お爺様の宝物でしょう!」泣き崩れる女性客。「私の借金を返済するために売り払ったと聞き、耐えられなかったのです――」  それが彼女の動機らしい。感傷的な空気が店内に(よど)む。 「――私には買い戻すお金がなく、盗もうとしました」 「ですが、こうして未然に防げました」水に流す店長。「あなたは無罪です。お爺さんを大切にして下さい」 「え? 見逃してくれますの?」 「事前に食い止めれば、犯罪ではないでしょう?」  店長は満面の笑みを(たた)えた。神か仏かと見まがう完璧な美貌だった。 「これにて一件落着です。風師さんが接客中、不審な女性に気付いたのもお手柄でした」 「お役に立てて光栄です! ご褒美に熱い抱擁(ハグ)所望(しょもう)しますっ!」  女性店員は顔を火照(ほて)らせて店長にしなだれかかったが、回避されて盛大にずっこけた。 「心を解きほぐす古物(こぶつ)時計店『(とき)ほぐし』――またのご来店をお待ちしております」    *
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