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あのお方の名前は“サーラ”と言った。本人から直接聞いた訳じゃない。
この騎士様も他のお方と同じで全然、喋らなかったからね。何となく、皆聞いたような気がした。そんな気がしたんだよ。不思議な話だろ?
金髪と澄んだ目、端正な顔立ちに大きくない背、女って言うより、女の子って表現が
ピッタリじゃった。服装は他民族の衣装みたいな衣、それと、ワシと同じくらいの
デカさの大剣を持っておったよ。
それを地面に刺して、海の方をジッと見つめたまま、枯れ草の野原に
ポツリと立っているんだ。丘の近くで畑をやっている農夫の“ピケティ”が
始めに見かけて、2~3日と同じ所に
立っている彼女を不審に思い、町の相談役みたいな立場にいた、ワシの所に知らせに来た。
皮肉なモンじゃよ。騎士様達がドラゴンを退治する時は歓迎して迎えたのに、
時代が穏やかになった途端、彼等を疎ましく思い始めた。
“また、ドラゴンが出るのか?”
とな。まるで騎士様達がドラゴンを運ぶ災厄の前兆みたいな考えを
持ち始めておったのじゃ。
かくゆうワシもそうじゃった。苦い話さ。そうやって、町の連中が不安がる中、当分は
ピケティが様子を見ておった。奴さんは話上手だから、時々、声をかけてもいたらしいが、返ってくる返事はいつも同じ…
「待ってる」
の一言だけだった。いよいよ可笑しい。待つってのは、仲間の事?
しかし、騎士様達のほとんどが単独行動だったし、およそ、家族がいるらしい様子は、
皆なかった。
彼等はいつも1人だった印象を持つ。そうなると、彼女が待つ相手は一つしかない。
そうだよ、若いの。ドラゴンだ。
ワシ等は確信した。だが、あの当時、奴等は絶滅していたといって良かった。町や隣の島でも、出現や目撃情報はなかった。更に気になったのは彼女の、サーラの行動だ。
本来、騎士様達は、ドラゴンが出た後に現れる。事前に察知して、
待ち伏せをしていたなんて事はまずない。初めて聞く話だし、彼女のような
騎士を見たのも、初めてじゃった。
1人、1人の名前を知っていた訳じゃないが、それでも、ここら辺でドラゴンを狩っていた騎士様は見知った顔じゃった。しかしサーラは知らない。見た事もない。
町の者達の疑惑が強まってきおった。中には、あれは騎士様ではなく、ワシ等に害を成す
新たな魔物じゃないかと言う奴も出てくる始末での。
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