竜を待つ人

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まぁ、確かに大剣を持っている者全てが竜を狩る騎士様と思ってしまうのも、安易で 危険じゃ。 時代が荒れていた頃は、魔物や盗賊がたくさんおった。人々は皆、その日、その日を賢明に生きておった。その記憶があるからこそ、 平穏な暮らしに現れた不安要素に対し、かつては平和をもたらした存在を、 再びの混乱を招く象徴として見てしまう、神経を尖らせてしまう事は仕方ない事かもしれん。 だが、顔役だったワシは、その理論で言えば、農夫のピケティが真っ先に殺される筈だし、 当てはまらない話だと思っていた。しかし、町の者達の考えを無碍にする事は 出来ねぇ。 そうして考えた末に、ワシが彼女に会ってみる事に決めたんじゃよ。…  あれは、雨がしとしと降る曇りの日じゃった。ワシは簡単な食事と飲み物を用意し、 丘に向かった。一緒に来ると言ってくれたピケティを伴ってな。 雨に濡れて、鈍く光る草原に彼女はいた。濡れた髪を拭おうともせず、草やら、虫がついた 服を着て、黙って海の方を見とった。聞いていたより、ずっと荒れ果てた感じじゃった。 思わずワシはピケティをつつき、囁いた。 「オイッ、お前は騎士様に話しかけるだけで、何もしなかったんか?あの荒れ果てた感じは 何だ?可哀そうじゃねぇか?」 とな。すると奴さん、申し訳なさそうに頭を掻いて、頷いた。まぁ、奴としても、 おっかなびっくりじゃったんだろうな。町の噂は十二分に伝わっていたしな。
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