煩悶

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 どちらにせよ、自分はうまく周りと調和をとれない。普通の話題というものもわからなかった。なんとなく楽しい雰囲気を保つ、という空気感の中で、智は自分を曲げたり合わせることができなかったからだ。  それなら一人でいる方がよっぽどいい。だから誰とも関わる気はなかった。  その、敢えて作った強固な壁を突き破って声をかけてきたのが勝谷だ。  『一人は駄目だ』  勝谷は頑固に主張する。  始めは迷惑だった。なるほど、勝谷はクラスどころか学年の大部分と繋がるほど友人が多い。その突き抜けた明るさは、智とは対極で、あまりにまぶし過ぎた。  成績は悪いが人気者で、単純な勝谷は皆で仲良くするのが好きだった。だから、孤立していた智が気になり、放っておけなかったのだろう。  声をかけられてから、勝谷は圧倒的に智の近くにいる時間が増えた。それぐらい当時の智にはサポートが必要だったということでもある。  何度も撥ね退けたが、勝谷はゆるがなかった。  些細な事で喧嘩を繰り返し(といっても智が一方的に怒ってわめいて、勝谷がなだめるという図式だ)智がそのしつこさに根負けする頃には、その存在にすっかり慣らされていた。  その頃にはタケルも混じってきて、ぶつかりあう二人を面白そうにみるようになった。
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