煩悶

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 高校生活の大部分を密着して過ごしたせいで、智が勝谷にとって特別な友人になったのは間違いなかった。  しかし、智にとっての特別とは重みが違う。  他人と交わることのなかった智が、その過剰な手助けと、特別な立場に多くの期待を持ったとして何の不思議があるだろう。  高校を卒業して勝谷と進路が分かれるとき、智が味わった喪失感はたとえようもないものだった。  専門学校に行く勝谷と、他県の大学に行く智。  二人の生活が一変することも、接点が激減することも目に見えていた。  だが、勝谷はさみしさなどおくびにも出さなかった。むしろ別れが近づいて、口数の減った智を激励した。  智はその友情に感謝したが、同時に一人で空回りしている気がした。  勝谷は友人なのだから、男らしく見送ってくれるその態度はとても正しい。  そう納得しようとして、でも、智はどこかで勝谷に、友人以上の言葉を期待していた。  『俺、智とは一生の友達だと思う!』    勝谷は智の出立を笑顔で見送った。背中を押された智は、もはや淋しさを見せることすら間違っている気がした。  いざ、大学生活が始まってみると、離ればなれからの自然消滅は杞憂だった。     
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