煩悶

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 今日のタケルは、特に上機嫌だった。得意の猫かぶりなスマイルと違って、内側からつい嬉しくて仕方ない気分が、溢れてしまう感じだ。 「何か良いことでもあったのか?」 上演が終わって、座席から立ち上がったタケルに思わず聞いた。 「何が?」 「今日はよく笑ってるな、と思って」 タケルは、ふ、と口元を押さえた。 「あ、いや、だって、そりゃそうでしょ?」 「ん?」  今度は智が疑問形である。普段一緒にいる訳でもないのにタケルに何があったかなんてさっぱり見当がつかない。 「思い当たるようなことは特に……メールでも見た覚えがないし」 「俺、これ、デートのつもりな感じで来てるんだけど」  照れくさそうに赤面したタケルに、智の方が返す言葉を失った。 「珍しく誘いに乗ってくれたし、二人だし……そっか、そう思ってんの俺だけか」 タケルは特に落ち込む訳でもなく、ただ苦笑した。 「その……気付かずにすまない」 ようやく智は、それだけ言った。タケルが首を横に振る。 「バーカ、すぐ真に受ける。いつものおふざけだよ」  バツが悪くなって俯いた智を、タケルは気にする素振りもみせなかった。そこから先も、ごく自然に楽しそうにしていた。  智も同じように受け流せばよかったのかもしれない。だが、そうするにはタケルのはしゃいだ顔が、本物すぎた。あんなによく笑って、上気しているタケルなんて、これまで見たことがなかったのだ。
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