煩悶

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「これをこうすると、ここに逃げ道ができるだろう」 「んー、何これ逆に見るの」 「そう、で、通った後で戻ると隠し扉を発見できる」  イベント会場の一角で、二人はRPGのシナリオを体験できる宇宙基地脱出体験ゲームにはまっていた。トラブルのあった宇宙基地から地球に戻るゲームだが、基地の構造と宇宙環境の厳しさに制限されつつ、迅速に脱出しなければならない。  普段はゲームなど興味がないタケルだが、智と一緒にやりはじめたらつい真剣になった。 「おー、智これ、ここまですごくいいタイム。このままいければ最速かも」 「……」  勿論、相当の負けず嫌いである智は、後半、口もきかずにゲームに没頭している。遊び下手だが、気に入りさえすればのめり込むタイプだ。先に先にと進んでいく。これがけっこう子供だましではなく、それなりの難度の知的ゲームだったのが余計だ。  壁に吊るされた大きなスクリーンにはこれまでのゲームの結果が反映されている。だからどうという訳でもないが、超えられるものならついムキになるのが人の性である。 「よし、これで」  智の指が驚くほど早く動いて、画像にALL CLEARの文字が躍った。脱出用ロケットが宇宙空間に発射された映像に切り替わる。 「お、見せて見せて」  タケルが身を乗り出し、智はその先に何か変化が起きるかと身を乗り出し、思わず二人の頭がゴツンとぶつかる。 「いて!」 「つ……、石頭だな、君は!」 「だって、よく見えないんだってば。ほら、タイム見せて」 タケルはぶつけた智の頭に手をおいて撫でた。細身の見かけによらず、厚みのあるしっかりした手のひらだ。
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