動揺

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「エアコン無しじゃ無謀だったなー、このボロアパート、危ないと思ってたんだ」 「そうなんだ、早めにホテルに避難させてよかったよ」 「体力どうだ。遊びにいけるぐらいには回復したか」 「まあまあかな。連れ出さないとまたすぐ研究室に籠っちゃうからね。気分転換も下手だから」 「だな。俺が近くに住んでれば適度に邪魔するんだけどよ。熱は出なかったのか」 「どうにか」  智はバツが悪いまま、お茶をすする。  苦い想いが消えなかった。  智のせいで勝谷が予定を覆したり無理するのは、これがはじめてじゃない。  心配は有り難いが、そこまでされるのは負担だった。余計な勘違いもする。 「勝谷、車、何キロで飛ばしてきたんだ。大会はいいのか」 「明日は行くって拝み倒した。大丈夫だ、仕事とは違うし、俺の他にもボランティアがいる。でもこっちは自分で顔見ないと、智の『大丈夫』は信用できねえから」  いつもの智の不愛想な口ぶりに安堵しつつも、勝谷は心配げに近づいた。  洗練された雰囲気のタケルに比べ、洗いざらしのシャツや色の抜けたジーンズはいかにも気取りがない。長身で手足が長い勝谷は、外の仕事が多いのかよく日に焼けている。くっきりした二重の目は、勝谷の生命力を反映するかのように力が漲っている。小柄で全体的に色素の薄い智とは、圧倒的にエネルギー量が違う。 「仕事、忙しいのか」  智は勝谷を見上げた。智と勝谷の身長差は二十センチ近くになる。
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