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「勝谷くーん! 竹野井君、どうかしたー?」
養護教諭が、異変に気づいた。
際どいタイミングで智から離れると同時に、カーテンが引かれて、白衣の教諭が入ってくる。
「やだ、顔真っ赤だ、竹野井君」
教諭は勝谷には目もくれず、半泣きみたいな智の寝顔に驚いて、濡れタオルを取り行った。勝谷の額にも汗の粒が浮き、顎から滴り落ちる。
勝谷は流れる汗を手の甲で雑に拭った。乱れた雰囲気の智を誰にも見られたくなくて、強引に肩を掴んで揺さぶり起こした。
もう半分ぐらい醒めかけていたのか、智はすぐ目を開けた。ぼんやりと、遅いまばたきをする。
「勝谷……」
「智、待ってろ。家まで送る」
「いい、俺は一人で」
「一人にできるわけねえだろうが!」
勝谷は自分でも意外なぐらい大きな声を出した。
混乱していた。
自分が智に何をしようとしていたのか、考えるほどにわからない。
まだ感触の残る指先は、その先に何をするつもりだったのだろう。
そっと守るはずの智の肌に、無茶苦茶に触れたいのはなぜだろう。
「荷物、持ってくる」
どの問いにも答えがでないまま、勝谷はその場から逃げ出した。
……そして今もまだ、逃げ続けている。
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