煩悶

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煩悶

 勝谷晃司の属性は、真夏の太陽だ、と智は思う。  多くを照らし、温める。その温もりは誰にも平等で、誰をも温める。だがいったん、適性距離を誤って近づけば、焼け焦げて、おちる。  高校時代、勝谷が自分にしてくれた親切は、友情という一言では片づけられないほど度外れていた。  智は俺の大事な友達だ。  勝谷はてらいなく堂々と宣言する。勝谷には恥ずかしさというためらいがない。だが、曇りのない笑顔でそう言われると、胸の奥まで光が差すような気分になった。  智の体の弱さに長く付き合えた友人はいない。退屈だし、無理できない。そのうえ偏屈だ。だから、智には友人という存在がほぼいなかった。  中学までは出席日数もぎりぎり、入院しているうちに行事は終る。学校に智の居場所はなく、勉強の主軸は学校より院内学級と独学だった。  だから高校生になって多少丈夫になり、ようやくまともに通学できるようになっても、智は対人関係のスキルにおいて幼稚園児並みだった。  だがそもそも、それまでの成り行きで、智は学校生活に何も期待していなかった。     
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