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動揺
家に戻ると、勝谷がいた。
勝谷は専門学校を終えて家業を手伝っている。
勝谷商会は何でも屋だ。ゴミの片付け、ペットの散歩、浮気調査、同行サービス、送迎。『困った事は勝谷に相談』、という謳い文句で、両親と数名の社員で経営している小さな会社である。
学生時代から、何かあれば顔をつっこむ勝谷の性格は、間違いなくこの家業の影響を受けている。お困りの声に気軽に応じるのは、条件反射かもしれない。
仕事でなくても、人手不足を聞きつければ気軽にかけつける。勝谷は元陸上部だったこともあって、母校の部活のサポートもしていた。
本来、この日は大会に同行する予定だったはずだ。智は驚くより先に溜息をついた。
「……けっこう元気で安心した」
智の顔を見るなり、勝谷の険しかった表情が和らぐ。
「タケルから話は聞いてたけど、体が空かなくってな。やっぱそうめんだけじゃダメか」
「それは全然君のせいじゃない。これ以上何も送ってくるな。それに阿川も余計なことをぺらぺらしゃべるな」
うなだれた勝谷に、智は慌てて牽制した。とばっちりのタケルは眉をしかめる。
「俺がちゃんと様子見てるって言ってんのに、勝谷が人の話、聞かないんだよ」
新しいエアコンを指さしながら、タケルが経緯を説明した。勝谷はふんふん、と腕を組みながら話を聞いている。智のことになると、二人は保護者のように意気投合する。
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