第四話 雪村隼人

2/3
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
「お嬢さんの腕を……?」 「そう。でも寝ていただけで全然大丈夫だっていうの。おまけに名前を教えたら、虫呼ばわりするんだもの。ほんと頭にきちゃった」 蝶子は隼人の変化を不思議に思いつつもそのまま喋り続けた。 「そいつはどんな奴なんですか」 「一条時雨と名乗ったわ。年は20代半ばくらいかしら」 「一条時雨……」 隼人はあごに手を当て、何かを考えるような仕草をした。 「もしかして、知ってるの?」 蝶子は隼人にたずねた。 「いや……わかりません。でも、私もその名を覚えておきましょう」 「……隼人が覚えてどうするのよ」 蝶子がつぶやくと、隼人はどうもしませんよ、とまたにっこり笑ってみせた。 付き合いの長い蝶子でも、彼はどうも食えないところがあった。 けれど蝶子を大事に思ってくれていることは、彼女もわかっていた。 「ねえ隼人。今度また剣道の稽古に付き合ってくれない?」 「いいですよ。でもこれ以上強くなってどうするんです?」 隼人は冗談ぽく言って肩をすくめる。 「最近は物騒な事件が増えているらしいから。鍛えておくに越したことはないわ」 「ああ……俺も聞きました。若い女性が血を抜かれて死ぬ事件が起きていると」 隼人は急に真面目な顔で蝶子を見た。     
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!