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「お嬢さんも気をつけてくださいね。何なら自分が送り迎えを……」
「だめよ。あなただって学校があるでしょ。それにあなたが学校まで来たらどんな噂をされるか……」
蝶子は隼人を慌てて止めた。
いくら使用人の息子だからと言っても隼人は若い男性だ。
女学校に連れて行ったらたちまち学校中で噂になることは目に見えていた。
「そうですか……お嬢さんがそう言うなら仕方ないですね」
隼人は残念そうだったが、蝶子はその言葉にほっと胸をなでおろした。
「私も気をつけるようにするから」
蝶子はできる限り彼に安心してもらえる言葉を探した。
「そうして下さい。お嬢さんに何かあったら大変ですから」
隼人はそう言うと玄関の扉を開け、蝶子を中へと促した。
学校一の秀才で見た目も悪くない。
当然女の子にはモテただろうに、蝶子は彼の浮いた話をあまり聞いたことがない。
それを彼女はいつも不思議に思っていた。
(私が知らないだけかしら)
少女は無意識に小首をかしげる。
「どうかしましたか?」
それを見た隼人が不思議そうに尋ねた。
「ううん……何でもないの」
蝶子はそれ以上深く考えるのをやめ、玄関の扉をくぐった。
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