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第二話 影
夕刻。
若い婦人が一人で歩いていた。
表通りはガス灯で明るいものの、一本入るとそこは薄暗かった。
あたりに人影はない。
婦人は振り返った。
もちろん誰もいない。
しかし、婦人は何かの気配を感じていた。
早く家路につこうと思ったのか、足取りを速める。
勘違いであってほしい。
でも、もしかしたら。
そんな思いで婦人は小走りしていたのかもしれない。
すると衝撃に耐えかねたのか、ふいに下駄の鼻緒が切れた。
彼女はつんのめるように転んでしまう。
こんなときに―――そう思ったに違いない。
そう、彼女は歩みを止めてしまったのだ。
「それ」はそんな婦人にゆっくりと後ろから近づく。
そして、一気に細い路地へと引きずり込んだ。
「誰か……た、助けて……!」
周りには誰もいない。
彼女の悲痛な叫びだけが、むなしく響いていた。
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