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第四話 雪村隼人
「お嬢さん、お帰りなさい」
蝶子が帰宅すると、一番に隼人が出迎えてくれた。
彼は庭先の掃除中だったらしく、手にはほうきが握られていた。
「ただいま、隼人。あら、今日学校は?」
雪村隼人は橘家の女中であるハルさんの息子だ。
彼は子供の頃から学校一の秀才と呼ばれ、現在は蝶子の父の援助を受けながら医学校へ通っている。
「先生が風邪をひいたらしくて、午後は休講になりました」
そう言うと隼人はにっこりと笑みを浮かべた。
彼は誰に対しても愛想がよく、要領もいい。
それでいて腕っ節は強く、蝶子をいじめた男子をぶちのめしたこともあった。
彼女にとっては子供の頃から一番近くにいる、頼れる存在が隼人だった。
「お嬢さんは今日、帰りが遅かったですね。それに着物が少し汚れている。何かあったんですか?」
隼人は頭がいいからなのか、勘も鋭い。
「そうね……あったといえばあったわ。ある意味、びっくりしたことが」
蝶子は先ほど起こった出来事を隼人にかいつまんで話した。
ボールを取りに藪に入ったら死体のような男性がいたこと。
それが実は生きていて、蝶子の腕をつかんで離さなかったこと―――
そこまで話したところで、急に隼人の顔つきが険しくなった。
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