天空より来る者

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 巨大龍ルトシールトが、街の近くに落ちてきて数日が経った。  最初こそ彼の龍の存在に怯え、家から出ることも出来なかった街の者たちも、ルトシールトがまったく動かずに大人しくしていることから、普段通りの生活を取り戻しつつあった。  その安寧には城壁の上から頭を下ろし、街の近くでとぐろを巻いているルトシールトが静かにしていることが大きい。  城壁越しにもルトシールトの身体の一部は見えており、いままでとまったく変わらずとはいかなかったものの、基本的には見えているだけで無害だったからだ。  人は慣れる生き物である。その順応性を遺憾なく発揮し、ルトシールトの存在を風景のひとつとして受け入れつつあった。 「ふむふむ……つまり、龍は群れないのではなく、群れられないのですね」  最初は、半ば人身御供として、意思疎通の役割を押しつけられて龍の前に放り出されたフルドだったが、いまではルトシールトと一番に話が出来、得だと思っていた。 『近くにいると大気中の魔力の取り合いになるからな。普段は離れて過ごす』  高天や秘境の奥深くに生息する龍は、半ば伝説の存在であり、その生きた証言が得られるのは大きい。  毎日朝早くからフルドは街の外に出て、龍と会話をしていた。  街を襲う気はないことを知って、街の有力者たちはこぞって巨大龍と縁を結びたく思っているようで、挨拶に訪れる者もいた。  だが、いざルトシールトを前にすると、自分の持つ権力ではどうしようもない相手と関わり合う方を怖れた。その巨躯は山のようであるのだから無理からぬことだが。  大抵は挨拶だけして逃げ帰ってしまった。 『あやつらは何を期待しておるのやら』  今日も商人のひとりが、揉み手をしながら寄ってきたはいいものの、ルトシールトの威圧感に耐えきれず街に逃げ帰ってしまった。  憮然とした表情を作るルトシールトに対し、フルドは苦笑を浮かべる。 「ははは。まあ、人間には色々あるのですよ。ルトシールト殿」  正直、ルトシールトとの会話の機会を奪われるのは嫌だと思っていたフルドは、有力者たちがこぞって逃げ去ることに感謝していた。  フルドは人間の風習についてルトシールトに話し、ルトシールトも興味深そうにそれを聴いていた。  ルトシールトとフルドが良好な関係を築いていたある日、国都から使者がやってきた。
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