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その日僕が公園に着くと、彼女はもうベンチに座って本を開いていた。
僕に気付くと、彼女は本を閉じてカバンの中にしまう。
僕もベンチに腰かけて、しばらくは沈黙が流れた。
「……今日は、良いお天気ですね」
やがて彼女がポツリとそう言った。
「そうですね。昨日は一日雨だったから、晴れてくれて少し嬉しいです」
そんな風に天気の話をしながら、僕は彼女の横顔を見る。
話をしている間、彼女はいつも足元を見ている。僕は、そんな彼女の横顔を見るのが、少し好きだった。
すると、その日に限って、ふいに彼女の視線が僕に向いた。
彼女は少し驚いた顔をしたけれど、僕だって似たような顔をしていたに違いない。
彼女は少し笑って、カバンの中から飴玉を取り出して僕にくれた。自分も包みを手に持ってはいるけれど、それを食べる素振りは見せない。
僕も、お礼を言って受け取ったそれは手に持ったままだ。
りんご味の飴玉。嫌いなわけではないけれど、話がしにくくなるのが嫌で口には入れないでいる。
たぶん、君が飴玉をくれたのに食べないのも同じ理由だ。
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