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僕らは飴玉を手に持ったまま、本の話や、好きな果物の話や、目の前から飛び立ったスズメの話をした。
そのどれもがどうでもよかったけれど、途中何度か沈黙を挟みながらも、話が終わることはなかった。
やがて陽が傾き始め、僕らがいつも別れる時間も近付いてきていた。
その時になってようやく、僕は彼女に別れを伝えることができた。
「……今日は、君にお別れを言いに来ました」
話が終わった後の短い沈黙を破って僕がそう言うと、彼女は目が合った時と同じに少し目を見開いて、驚いた顔をしていた。
けれどもその後、寂しそうに微笑んで言った。
「……そんな気がしていました」
彼女はそう言うと俯いて、少し目元を押さえた。
僕の胸は酷く痛んだけれど、彼女に掛ける優しい言葉を、僕は何一つ持っていなかった。
陽が沈んで辺りが薄暗くなるまで、僕らは黙ってベンチに腰掛けていた。
そろそろ帰らないと、と言って、彼女が先にベンチを立った。
僕も立ち上がって、彼女にいつも通り声をかけようとした。……かけようとして、止めた。
「じゃあ、また」と言うのが、僕らのいつもの別れの挨拶だった。
けれども、もう君と会うことのない未来に、この言葉は似合わないと思った。
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