わらわのつとめは、邪魔

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   1  数日後。  駅前の大通り。  商業施設やコンビニがならぶ通り沿いは、良太の通学路でもある。いつものように歩いていると、駅広場のど真ん中でスマホを操作している女を発見した。  まわりの行き交う人々と女はぶつかりそうになるが、全く意に介してないようだ。  ピンク色の縁眼鏡だけが、雑踏の中で異様に浮いている。  女は顔を上げ、良太と視線をが合うと、またにんまりと笑った。    ち!  良太は舌打ちした。視線をはずして無視して歩き続けた。  あの女、幾つだろう? 50代、40代。まさか20代じゃないよな。  第一印象的にはけっこうな年配だ。  そのとき、良太の前を品の良さそうな老婆が横切った。黒い大き目の手提げカバンを抱きかかえて、急ぎ足で去って行く。  カア。カア。カア。  見上げるとカラスが電線に止まっていた。  カア!  羽を広げて、ひときわ、大きく鳴いた。  ぼとっ!  白いかたまりが老婆の頭の落下した。続けて、今度は、手提げカバンの中に吸い込まれていく。  老婆は腰を抜かして、その場に座りこんでしまった。  カラスのでかいフンが、直撃したのだった。  悲惨な光景を目撃したのは良太だけではなかった。  スーツ姿の若い男が近寄ってきた。しゃがみこんで老婆に何か話しかけている。カバンの中を覗いているようだ。  ぼとっ!  今度はスーツ男の後頭部に落ちた。  ひゃああ!   男は悲鳴をあげた。白い汚物は男の首筋からワイシャツの内側へ流れていったようだ。慌ててハンカチとティッシュでぬぐっている。  騒ぎを聞きつけたのか、警官たちが駆け寄って来た。 「もしもし、おばあちゃん、大丈夫ですか。おや、このカバンの中も汚れちゃったねえ。あれ、これ何かな? あれま、札束じゃないですか。どうしたの、こんな大金?」  すると老婆は急に泣き出した。 「息子のためなんです。息子が困ったことになって、それでこのお金で・・・」  あとは言葉が続かない。 「ああ、そりゃ振り込め詐欺ですよ。ゆっくりお話をきいてあげますよ」  警官に肩を支えられて、老婆はゆっくりと立ちあがった。  スーツ姿の男はいつのまにかいなくなっていた。  良太は周囲を見回した。  ピンク色の縁眼鏡の女が、今度は、駅の券売機の所で良太を見つめていた。  にんまりと笑った。
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