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正義とは、権力の奴隷ではないのか。
真実とは、偽りのまがい物ではないのか。
誰も彼もが、光ばかりに群がっては、傷つき、横たわっている現実に跨り、涙している理想を気にも留めない。
誰かの声が聴こえたとしても、それは空耳だと決めつけて無視をする。
足元に縋っている虚像に、忠告と誘惑を投げかけてみても、その手を離そうとはせず、闇の中に引きずり込んで行く。
真夜中、新月故に明るさなどないその闇の中を、黒い集団が駆けていた。
物音ひとつ出さずに城に忍び込むと、家臣たちに見つかることもなく、静かに天井裏から部屋を覗く。
そこには、規則正しい呼吸をして眠っている、城主の姿があった。
黒い影は城主の枕もとに着地すると、父親よりも歳の行っていそうな城主の首元にナイフをあてがう。
実際には、父親の顔など見たこともないが。
その時、シワの多い城主が目を覚まし、黒い影を見て声を出そうとしたが、グッと力を込めて首に腕を回した。
声の出せなくなった城主に恨みは全くと言って良いほどないが、あてがっていたナイフを勢いよく引いた。
血飛沫の音は、叫び声にも届かぬほど小さなもので、城主は自分の首に腕をあてながら、黒い影の方を見ていた。
城主からは離れ天井に上ると、目を見開いたまま亡くなった城主を見ることもなく、城から立ち去って行った。
城主が死んでいるところが発見されたのは、翌日のことだったようだ。
「仕事は果たした。金を貰おう」
「そう急かすな。ほれ、お前等で分けろ」
ガシャン、と重たそうな金属音が地面に叩きつけられると、先程まで自由に飲み食いしていた者たちが一斉に集まる。
仕事に行った者達は、自分の取り分を誰よりも先に手にしようと、まるで餌に群がるハイエナのようだ。
「今回も楽勝だったな」
「当たり前だろ。俺達にかかれば、天下だって取れるぜ」
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