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「あそこには信楽とかいう、腕のたつ忍がいると聞いている」  「腕がたつと言っても、伊勢たちほどではなかろう?攻め落としても良いと思うがね」  「それに、最近では忍を使う城よりも、より腕のたつ武士を雇う城が増えて来たと聞く。武士を倒すのも、なかなか骨のいる仕事だ。なんとかならぬのか」  「この村からも、抜け忍が出るやもしれんな。誰も裏切らぬよう、しっかりと目を見張っておらねば」  大声で話しをしている雑賀たちは、さらに話しを続ける。  「抜け忍なんぞ、伊賀のように厳しく罰すれば良いではないか」  「伊賀も甲賀も敵ではないわ」  「そのような大口をたたいて良いのか?今攻められては、我々は一網打尽。優秀な忍は多けれど、みな金で尻尾を振る輩ぞ」  「だからこそ、手放さぬように金で飼い慣らしておく必要があるのだ。私らが稼いで、こやつらを飼う、な」  「人の欲とはおぞましいものよ」  喉を鳴らしながら笑う男たちを他所に、金を貰った男たちは次々に散って行く。  まだその場で酒を飲む者もいれば、家に帰って寝る者、畑仕事をする者と、それぞれの時間へと戻る。  この村にいるのは、ほとんどが成人の男だ。  そこに紛れこむようにして子供たちもいるが、男たちの子供というわけではない。  身寄りのない子供、または金が無くて売られた子供を引き取り、この村で育成し、忍として生きるよう指導しているのだ。  子供たち全員が忍になれるかというと、決してそういうことではない。  修行中に死ぬことなんてザラにある話で、だからといって、子供1人のために葬儀をすることも泣くことも悼むこともない、無情な村と言えば、そうなのだ。  この村に来たからには、強くなければいけない。  誰かに助けを求めようなどと、そんな浅ましくも愚かなことを考えていると、誰も手を差し伸べないという当たり前の常識を目の当たりにしたとき、絶望に落とされる。  傷ついていても、泣いていても、ただそこで静かに死んでいくしかないという恐怖を持った者から消えて行く世界。  誰が死のうと生きようと、興味を持ってはいけない世界。
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