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「ねぇ?気づいてる」
カミサマが笑う回数が減っている。これはこの質問を始めてからだ。
「何か変わっているな。何が変わった」
木嶋は自分の行動を思い返す。考え、思い返し、そして気づいた。
当然の物が無くなっていた。
「なあ。俺いつから会社に行っていない?」
「さぁ。結構前から行ってないね」
思い返したらありえないことだ。何故そんなことになったのか。休むなら兎も角会社に行くことを忘れるなんてありえない。
「なあ。他に忘れた物何かあるか?」
木嶋の言葉にカミサマはいくつかの単語をぽつりぽつりと呟いた。
「うな重を食べた場所。カラオケ。会社の位置」
それはここ最近言った場所だった。特に変なことは無かった。どれ一つ木嶋にはその位置が思い出せないことを除けば。
「あれ?なんで俺場所思い出せないんだ?」
「外国の転勤」
カミサマの一言に木嶋は顔が青ざめた。どの国に行ったかすら忘れているのだから。
「なあ。俺ってアルツハイマーか何かなのか。何でこんなに思い出せないんだ?」
木嶋は震えながらカミサマに尋ねた。だがカミサマは首を横に振る。
「ううん。そうならまだ良かったかもしれない。私でも対処出来るから」
そう言いながらカミサマはカーテンを開けた。外は暗くなっていた。
「見て。何か気づくことある?」
木嶋は言われるままに外を見た。外は暗くなっていて近場の家しか見えなくなっている。
「いや別に。そろそろ夜かーって位しか」
「じゃあ、今何時?」
そう言われて、木嶋は全員が震え上がった。ただただそれは怖いことだった。
気づいたら時間の感覚すら無くなっている。そして、腕時計を見てしまった。針が一本も無かった。スマホのデジタル時計も全ての数字が8になっていた。ご丁寧にアンテナもゼロだ。
「なんだこれ。どうなっているんだ?」
「もう一回。外を良く見て」
言われるままに木嶋は外を見る。夜という錯覚を捨てて外を見た。
空は暗くなっている。夜ではない。空が消えているのだと理解した。
それよりも大変なモノが消えていた。
周囲大体百メートルを残して、全てが消えていた。建物も、土地も無くなっていた。
世界は僅か百メートル以内だけになっていた。
「思い出せないんじゃないの。もうその場所は無くなったの。概念としてすら存在していないから覚えてないように感じるだけ」
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