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三度のおまんまに不自由することの無くなりました男は、十両の金を懐に抱き、江戸中をうろうろと歩き回りまして、行く先々で金をちらつかせては何やら人に物を訊ね歩いている。
「その方、毎日一体何をしておるのかのう」
「うん。人捜しだ」
「人捜し?!」
「そう。俺の女だ。いい女でさあ、その女のためなら、俺ァ堅気になってもいいと思っていたんだが……」
「……普通は、そういうことを神に願うものじゃ、ないのかの」
「嫌だね」
間髪入れずに男が答えます。
「惚れた女だぞ。てめえで見つけ出さなけりゃぁ意味がねえ。それに……死んだ者は生き返らせねえっていうんだろ。もし……もしもおようがもう、この世のものでなかったら、俺はこの先一体、何を頼りに生きりゃぁいいんだ?」
「むむむ」
生きているものと信じて探し続けた方がましだと言うんですな。
それではこの先ずっとこの調子で、江戸中どころか日本国中この男の付き人として、連れ回されかねない。それじゃあかないませんから、神様も思案をした。
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