最後の願い

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最後の願い

 さて、その頃、小間物問屋の三好屋で、騒動が持ち上がっておりました。  ひょっと目を離した隙に、赤ん坊が消えてしまいましたので。  そうですそうです。喜八、お由布夫婦が、女神様から授かった赤子でございますよ。  まだ這い這いも出来ない赤ん坊でございますから、自分でどこへも行けるわけが無い。拐かされたか、鷹にでも掠われたか――夫婦の心痛は計り知れません。  思いあぐねた二人は、連れだって神社へと参りまして、 「神様、神様、お願いでございます。どうかわたくしどもの息子を、ここへお戻し下さい」  実は、この夫婦の願いは、命数が尽きるまでの安泰な暮らしと子ども、ここまでで二つですから、あともう一つ残っておりましたんでございますな。 「確かに、聞き届けました」  どこからともなく、鈴を振るような女神様のお声が聞こえて参りまして、辺りが光に包まれますと、そこには赤ん坊をしっかと抱いた捨松が立っておりました。
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