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「あんた……このお人は、お前さんの若い時にそっくりじゃないか! 目元なんかは瓜二つですよ」
お由布が叫び、
「ああ、本当だ、口の辺りなどは、お前にようく似ているよ」
わなわなと喜八が震えます。
「神様……神様が本当にあたし達の願いを叶えて下さったんだ。間違いない。この人は、あたし達の息子ですよ!」
三十余年前、人に騙され、店も財をも失い、乳飲み子を抱えて路頭に迷った喜八、お由布夫婦は、もう死ぬしか無いと思い詰め、しかしなんにも知らない幼い我が子までをも道連れにするのは忍びないと、お寺の門前に立つ大きな松の木の下に、赤ん坊を捨てたのでございます。
しかし、助ける者があって命を拾い、それから二人はそれこそ死に物狂いで働きました。幼子を抱えていては出来ない無理もして、ようよう息が付けるようになった時には、真っ先に赤子を捨てた寺へ行き、消息を尋ねてみました所が、もう出奔して行方も知れぬということでした。
「その時は、この世には神も仏も無いと思ったが、そうじゃ無い。子どもを捨てるなんて罰当たりをした報いだ。どうかお前、私達を許しておくれ」
泣きの涙で喜八が、地べたに禿頭をすりつけますと、捨松、
「なるほど、どうりでかみが無い」
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